「お招きありがとうございます」
王太子婚約者であるミカエラにとっては、お茶会への出席も大事な社交のひとつである。
(気分で出欠を決められるわけではないけれど、今日は来たい気分ではなかったわ)
軽く礼をとったミカエラは、チラリと周囲へと視線を投げた。
今日のお茶会はガゼボだ。
ミカエラは、あの日倒れたガゼボで開かれたお茶会に招かれている。
「まぁ、ミカエラさま。ようこそお越しくださいました。あの日から間もないのに、ありがとうございます。お加減はいかがです?」
賑やかに咲き誇る庭園の花のように、賑やかに飾り立てた貴族夫人が愛想よく出迎えてくれたからといって、ミカエラの気分が上がるわけではない。
しかしミカエラの立場では、断ることが難しい相手は沢山いた。
「ありがとうございます、ヴァリーデ公爵夫人さま。おかげさまで元気になりましたわ。ご心配おかけして申し訳ございません」
公爵夫人は声高らかに笑った。
「ほほほっ。たいしたことが無くて本当によかったわ。貴女は王太子の婚約者。未来の王太子妃であり、未来の王妃。元気でいてもらわなくてはいけないわね」
「はい。承知しております」
王太子が襲撃を受けた日。
結果として貴族たちの噂になったのは、ミカエラが倒れたという話のほうだった。
当たり前の話である。
襲撃されても怪我ひとつ無かった王太子の話よりも、血を噴き出して倒れた令嬢の話の方が面白い。
理由はそれだけだ。
ミカエラが貴族たちの噂になるのは毎度のことであり、時には妙な話も混ざってしまう。
スキャンダルはどうでもいいし、ミカエラのプライドなどいくら傷つけてもよいと考えているからだ。
本当に都合の悪い事実を隠すためには、面白おかしい話が効果的である。
噂は否定するよりも、面白くてもっともらしい嘘とすり替えたらよいのだ。
今回も『何も無いのにいきなり血を噴き出した』という話から『溜まっていた月経血が溢れ出てドレスを汚した』という話に変わっていた。
「体調が悪いときには、欠席する勇気も大切よ。断りにくいお誘いもあるでしょうけどね。特に前回のお茶会は、王妃さま主催のものでしたからね。断りにくかったのは分かりますけれど……」
「はい……」
庭園でミカエラが倒れたという噂は、瞬く間に広がっていた。
つい一昨日のことであるのに、令嬢たちは皆、そのこと